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二学期から学校に行きたくないきみへ

 

 8月もあと1週間ちょっととなりました。ということは、学校の二学期が始まるのもあと1週間ちょっとということですね。いや、二期制の学校はもうあと数日かもしれません。

 この時期は学校に行きたくないと感じる人が多くいます。学校のことを考えると、気分が重くなったりゆううつになったり泣きたくなったりイライラする人がいます。気持ちだけでなく、だるくなったり頭やおなかが痛くなったり、呼吸や心臓のこどうが速くなったりといった身体に変化が出る人もいます。

 今回は、そんな気分の方や、すでに学校に行っていない方に向けて、小中高大のたくさんの学生さんの相談を受けてきた経験から、私の思うことを書いてみます。

 もちろん、人によっていろんな気持ちや事情がありますから、私が経験したことで多いパターンというか一般的、基本的なことをQ&Aで書こうと思います。

 

 

Q そもそも、学校ってぜったい行かなきゃいけないの?

A 最近はネットでもテレビのニュースでもよく言われていますが、死ぬくらいつらいなら行く必要はないと私も思います。そこまでつらくなくても、学校が楽しいと感じなかったり、行っても意味ないと感じるなら、しばらくお休みしてみるのもよいと思います。

 

  とはいえ、学校に行かないで家にずっといて、家族としか話さないというのはやめたほうがいいと思います。理由はいくつかあります。今回は二つお伝えします。

 

  一つは、人はどんな状態でもこころが動いています。もっと具体的にいうと、こころの中には想像とか空想とかファンタジーというのがどんなときでも必ずあります。だから、学校に行かなくてもゲームをしたり動画を見たり、本を読んだりしますよね。でも、ひとりきりでいると、そのファンタジーがじょじょにかたよってきます。私は人にとってファンタジーというのはとても大切だと思っています。学校に行っていない人のファンタジーもとても大切だと思います。そんな大切なファンタジーが、ひとりでいることでゆがんでしまうことがあるのです。大切なファンタジーがゆがまないように、ぜひあなたのファンタジーを大切にしてくれるだれかとお話してもらいたいと思います。

 

  次に、人が勉強したり働いたりするには、他人への愛情や社会への愛着が必要です。このときの愛とは、恋愛だけではなくて、友情や安心感、いごこちのよさ、いとおしさ、信頼、やさしさ、興味・関心、希望などといった何かに向けられたポジティブなエネルギーです。これがあるから、勉強や仕事のつまらなさが軽くなるのです。そして、他人や社会を愛するには自分で自分を愛していないといけません。さらに、自分を愛するには他人から愛されていないといけません。でもひとりでいると、他人から愛されないから自分を愛することがなくなって、けっきょくは他人を愛することがなくなっていきます。そうするといざ勉強したり働いたりしたいと思ったときやその必要があるようになったときに、エネルギーがなくて動けないことがあるのです。

 

  だから、学校に行かなくても、だれかとお話してほしいのです。お友だち、スクールカウンセラーや教育相談員、ソーシャルワーカー、信じられる先生、図書室、保健室、適応指導教室やフリースクールなどなど、学校に行かなくても他人とふれ合えるところはあります。あなたのこころとからだを思いやってくれる人をさがしてみてください。

 

Q そもそも人と話したくないんだけど。

A そうですね。学校に行きたくない理由として、学校での活動や勉強自体というより、クラスメートや先生との人間関係でつらいというのはとても多いですね。人間関係につかれたり、人からうらぎられたりしたことがきっかけというのは本当に多いです。なるべくあなたをきずつけない人を出会ってほしいとねがいます。少しだけでも話しやすいかな、信じてもいいかなという人を探してみてください。

 

Q なんで家族とだけじゃだめなの?あと、ゲーム内やネットやSNSでは話しているよ。

A 若いみなさんにとっては、家族というのはむずかしい存在です。とくに母親とは距離が近すぎて、自分のこころが影響しすぎるのです。逆に母親のこころが影響してくることもあって、知らないうちにお互いれいせいなやりとりができなくなっていることが多いのです。家族といるときだけの性格や人格というのもあって、それはたいてい、感情が乱れた自分です。そのバージョンだけになってしまうのはあまりよくありません。

  ゲームのチャットやSNSでのやりとりも、家族だけよりはよいと思います。でも、ネット上ではやはり感情がむきだしになりやすいです。ネット上でのやりとりは現実とマナーが違うだけでなく、性格も変わってしまったり、ネットだけの人格を持ったりします。現代ではそれも大切なこともありますが、それだけだとネット人格みたいな自分が、現実をこわがったりにくんだりして、現実の自分が動けなくなっていくことがあります。ネット人格も現実での人格も両方大切にしたいですね。他人とかかわるときのバージョンのあなたも、大切なあなただと思います。

 

Q いや、学校に行く必要ないと言われても、ぼく(わたし)は、行きたいとは思っているんだけど。

A 人のこころはとてもふくざつで、こころの一部で思っていることをすぐに実行できるとはかぎらないんです。不思議ですよね。私も長年研究しているし、もっとえらい学者先生たちも研究しているんだけど、人のこころにいろんな面があって矛盾していることや、考えた通りに動けなかったりするメカニズムについてはかんぺきにわかってはいません。精神的に成長するとそれがある程度できるようになっていきますが、大人でも理性や常識の通りにこころをコントロールできないことがあります。自分でもわからないこころのメカニズムで、学校に行きたいと思っていても行けないというのはつらい状況だと思います。そういう場合は、ぜひプロのカウンセラーに相談してみてください。

 

Q 学校に行かない、生きたくないのはこころの病気なの?

A こころの病気があって学校に行けないということもありますが、こころの病気がない場合も多いです。私としてはカウンセリングに来ている方を病人とか異常がある人とは思っていません。むしろ、かしこくてしっかり者でいろいろ考えたり感じたりしている人であることも本当に多いです。でも、上に書いたように、ひとりでいることが続くと、こころの病気に近くなっていくこともあります。

  ときどき、自分は病気じゃない、異常じゃない。学校には行こうと思えば行けるけど、行こうと思わないだけ、だからカウンセラーのところになんて行かない、という方もいます。カウンセリングでなくてもよいので、少しでも楽しいとかいごこちがよいところに行くことはおすすめです。

 

 

 結論としては、学校に行かないのは、まあ、OK。でも、ずっとひとりでいないようにしよう。少しでも自分を大切にしてくれて楽しく、安心してすごせる家族以外の人と直接お話しよう。そうすれば、いろいろ悩みがあっても、だいたい何とかだいじょうぶ。

 でも、これも複雑なんですけど、あなたを大切にしてくれた人や楽しい人が、あなたを利用したりあとからこわい人に変わることもあるので、できればれいせいな判断ができる心理学とか教育の専門家が一人はいたほうがいいですね。

 あと、あなたをかんぺきに理解してくれたり共感してくれたり、いつもぜったい楽しいお話ができるという人はなかなかいません。だから少しでいいんです。ちょっとだけ、あなたを大切にしてくれ、安心できて、楽しくて、れいせいな人を見つけてみてください。