· 

正常性バイアスと平常心

 新型コロナウィル、COVID-19の影響で、いろいろな方面で苦しみや悲しみ、不安が広がっています。気持ちの面だけでなく、経済活動や教育、イベントなど、あらゆる社会活動にも及んでいます。

 

 心理と武道の専門家として、何か発信すべきだと思っています。休校中の過ごし方は前回書きました。今回は、危機の際に問題となる「正常性バイアス」について考察し、メッセージを送ります。

 

 「正常性バイアス」とは、危機、危険、悪い事態について、無視したり過小評価してしまうことで、非常事態、緊急事態なのに日常通りの認知や行動をとることです。危険がせまっていたり起きていたりしても、「たいしたことない。」「これはいつもことだ。」「自分はだいじょうぶだ。」「まだ逃げるほどじゃない。」「な~に、死にゃあしないって。」「平気平気!」などと感じています。

 

 昔は、危機の際にパニックになることがおそれられていました。しかし近年では、パニックより危機の過小評価のほうが被害を拡大させるとわかっています。

 日本では、東日本大震災で広く認識されました。地震が多い日本では、強い揺れでもよく起こることと認識し、避難が遅れた例が多くありました。

 

 しかし、武道・武術では危機の際にも「平常心」でいることを求めています。刃物やこぶしが迫ってきても、興奮し気持ちを高ぶらせず、普段と同じように落ち着いてリラックスし、柔らかく動くよう稽古しています。

 武道や武術でなくても、緊張する場面、たとえば入試とか発表会、試合でも、先生やコーチ、監督から「冷静に」とか「落ち着け」、「普段通りやれ」とか言われたことも多いのではないでしょうか。

 

 この「平常心」は、下手をすると「正常性バイアス」と同じになってしまうかもしれません。

 

 しかし、武道・武術では、危機への対処法、動きがあるということが大きく違います。刃物やこぶしが迫っていて、本当に「正常性バイアス」にとらわれ普段通りにしていたら、よけることもしないわけです。武道家は、普段通りの心を持ちながら、非常事態としての動きをするということになるでしょう。その動きが技であり、「平常心」つまりリラックスや落ち着いた心のまま、技を行います。

 「平常心」を持ちながら危機に対しての行動をとる、というのが武道の教える危機への対処法ではないかと思います。

 

 

「平常心」で危機対処行動 >>>> パニック(あわてふためく) > 正常性バイアス(何もしない)

 

 

 今回の新型コロナウィルスに関していうと、「自分は感染しない。」「平気平気!」「風邪みたいなもんでしょ。」と、手洗いもしないし、ドアノブの消毒もしない、集団のイベントに参加してしまう、咳していてもマスクしない、のが「正常性バイアス」にとらわれた最悪の行動です。

 一方「平常心」を失って「パニック」になると、十分あるはずの品物を買いだめし、デマを信じ、自分はすぐにでも死んでしまうかのように心配する、国や世界が滅んでしまうかのように絶望する、ということになるでしょう。

 心理学と武道を学んだものとしては、平常心」を持ちながら、新型コロナウィルスに対し必要な対処をしましょう。ということになります。もちろん、未知のウィルスですし政府が的確な方針を示してくれない状況で、必要な対処法をとるのは難しいことです。こう書いている私も、不安や緊張を感じる日もあります。

 ネットでもテレビでも複数の情報にあたり、専門家の言うことと自分の理性や合理性を頼る、その場しのぎの対処法だけでなく、根本的な情報を調べる(ウィルスそのものや歴史、人間や社会の動きなど)。これが重要かと思います。その力をきたえ、経験を積んでいくと、直観も信じられるようになっていきます。