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自閉症スペクトラム障害の方のこころのマッサージ

 カウンセリングはマッサージと似ている面があります。こころのマッサージなんて呼ばれることもあります。

 定期的に、あるいは、こころに悩みやもやもやしたものがたまってきたら、来談してお話をしてそれらを吐き出し、カウンセラーとやりとりするうちにこころが軽くなって、元気になる、というのは、確かにマッサージに似ていますね。身体のくせで腰痛や肩こりなどが起こりやすい方がいるように、こころのくせでうつ的になったり悲しい気もちになりやすい方もイライラをためやすい方もいるかと思います。

 

 こころのくせそものものを変えようとするセラピーや深刻な解決すべき問題があるときは、このような方法だけでは足りないかもしれませんが、そうでない場合はマッサージのようにカウンセリングをご利用いただくもの良いと思います。

 

 さて、自閉症スペクトラム障害(ASD)の方にも、こころのマッサージが必要なときがあります。こころの中にたまったもやもやを吐き出して整理し、元気を取り戻すカウンセリングが有効なときがあります。しかし、ASDの方はその認知的特性から、定型発達の方とは違うこころの整え方があると私の経験上感じています。

 

 それは、問題を合理的、論理的にこころの中で決着つけることです。

 日常生活で経験したことを、こころ中で説明づけて位置づけることが、ASDの方にとって、元気を取り戻していくのに必要なようなのです。

 

 世間とは常に不確かであいまいです。ASDの方は、合理的、論理的で規則性のある状況が楽に感じるのですが、それだけですむ世界はなかなかありません。電車やコンピュータープログラミングや学問の世界くらいでしょうか?(ASDの方に電車好きが多いのは、電車の持つ規則性に惹かれているのかもしれませんね。)ASDの方は日常生活のなかで、世界のあいまいさと不規則性によって、日ごろからけっこうなストレスを感じているのだと思います。

 

 そこで、ASDの方のこころのマッサージとしてのカウンセリングでは、対話によって、日常生活での経験について合理的、論理的に腑に落ちるように整理することが有効な方法だと感じています。

 

 私は以前からこれらの方法を「内面の構造化」と呼んでいます。ASDの方への支援として定着したTEACCHプログラムでは、「構造化」とは環境をASDの方の認知にとってわかりやすいものにすることです。

 私はカウンセリングにおいては、クライエントさん自身の中にあって収まりがついてない経験(思い出)を、わかりやすい形に変えて納得感を得ることで精神的な安定を得ることが「構造化」だと感じています。

 ストレス因や自分の弱点について直接改善しなくても、対話を通じ世界のあいまいさについて理屈がつくだけで、ASDの方はかなり心理的に楽になるようです。

 

 例えば対人トラブルでも、相手に嫌なことをされたというストレスと同時に、どうしてそういうことをするのかわからない、というのがさらなる怒りや悲しみとして重なるのです。定型発達の方だって、嫌なことをされてその理由がわからないのはストレスフルです。しかしASDの方にとっては、相手の行動の理由が推察できないことが多く、また理由がわからずあいまいなときに感じるストレスも強いので、さらに苦しいようです。

 

 たとえば、「友だちから無視された!」と怒るとき、よくお話を聞いていくと「なんでそんなことするのかわけわかんない!」と続くことが多いのです。無視された怒りと、理由・理屈がわからないことのダブルパンチで怒りがさらに強くなっているのですね。

 

 そこで、話しを聞いてその理由や理屈、メカニズムを説明することで、こころの中で落ち着き整理される場所を見つけると、ある程度安心するという方法を目指します。特に解決策や具体的な方法を言わなくても、解説だけでかなり落ち着く事例が多いです。

 気を付けなきゃいけないのは、カウンセラーの主観の押し付けをしないことです。必ず、「私の主観ではこう思う。」「多くの人はこう感じるかもね。」「心理学の研究ではこう言われているよ。」と、自分の解説の根拠や、私の主観に過ぎないことも伝えます。

 

 そして、この方法はASDの方の年齢が低いほうが効果があります。上記したように、ASDの方は曖昧でわからないという状態がつらいので、自分なりの見方を固めようとします。その価値観が固まってしまうと、別の意見や考えをなかなか受け入れてもらえない場合があります。特に、それが他罰的、つまり自分に悪いことが起こるのは他人が悪いのだ、という収まり方をしてしまうと、なかなか変化しません。

 

 そのような場合は、やはりカウンセラーとの関係性が大切になります。信頼や愛着をカウンセラーに持ってもらえると、じょじょに、別の意見も受け入れることができていきます。それでも、自分が固めてきた他罰的な見方を変化させるのはつらいことなので、かなり大変な作業になるでしょう。

 

 そこで、なるべく早い段階で、保護者、教育者のみなさまには、自分自身や友だち、世間等の意見や感情、考え方について、理屈で説明するようなご指導を取り入れていただきたいと思います。