この度、『心理臨床学研究 第43巻第3号』に、合気道セラピーの論文「合気道を応用した心身一如のセラピーによって脱中心化と受容を体得した事例」が採択、掲載されました。そこで今回のブログは、この論文の事例部分をなくし内容を簡略化したバージョンを載せたいと思います。
さて、以前「うつの合気道セラピー」というブログを書いていますが、今回の論文もうつの事例を考察したものです。
<とらわれ・執着とうつ>
まず、うつの特徴を考えてみましょう。精神医学の初期の医師、テレンバッハは、うつ病になりやすい人の性格として、「メランコリー親和型」と言いました。どういう性格かというと、まじめで几帳面や完璧主義、中間的な考えができないという感じです。それは後の世代の認知行動療法や日本の森田療法でもほぼ同じことを言っていて、几帳面、完璧主義、べき思考、思考の固さ、はうつの性格的な特徴です。(新型うつとかは少し違い、現代はもっと複雑になってきていますが、メランコリー親和型はやはりうつ病の方には多いです。)
しかし、その性格だけでうつ病になるのではなく、それらにとらわれ執着・固着してしまうとうつにおちいると言います。それもテレンバッハも認知行動療法も森田療法も共通して言っていることです。
ですので、うつに対する現代のセラピーは、とらわれから離れ、こだわらず、感情や思考から距離をとることを進めていきます。
<合気道と現代のセラピー>
合気道においてセラピーと合気道の似ている点はここにあります。
合気道についても、相手を倒そうとか勝とうというこだわりは捨てるよう稽古します。そういった気持ちはむしろ身体を「居着き」状態にし、動きを固くし、調和や和合といった合気道の理想をは程遠くなってしまうのです。そこで、攻撃を敵とみなしよけたり防いだりせず「受容」し「歓迎」します。(合気道のこの特徴はこれまでのブログでもたくさん書いてきました。)
セラピーでも、症状や問題を取り除こうとか、治そうとか、よくしようとするとかえって悪くなると考えられるようになりました。これは問題だ、治そう、良くしよう、と考えると、そこを意識しすぎてこだわりになってしまうんですね。
そこで、現在のセラピーでは、症状や苦しみを取り除こうとせず、そのままにして受け入れ、通り過ぎるのを待つ、症状や悩みをかかえながらできることをしていく、むしろ歓迎する、といった姿勢をつちかうようになってきました。そのためには感情や思考に巻き込まれず、「距離をとる」必要があります。それは「脱中心化」や「あるがまま」と呼ばれます。
つまり、合気道と現在のセラピーは、同じ原理を持っているのです。
<心身一如と修行>
ここで日本文化と武道について少し述べます。
日本の伝統文化に共通してみられる特徴として、心身は一つという「心身一如」があると思います。合気道をはじめとして武道は、もちろん身体を使うものなので、特に心身一如を強く意識しています。
ここで注意が必要なのは、心身が関係しているというのは西洋文化においても常識で日本だけのものではないということです。日本文化が他の文化圏と比べ少しだけ独特な点は、別れた心身を統一することが理想状態なのだと考えている点です。洋の東西問わず、心身は分かれやすい。でも日本においては、心身を統一することが理想状態であり、そのためには修行による体得が必要であると考えているようです。
<合気道とイメージワーク>
まじめさゆえにこだわりや固着によってうつ状態になった心を癒すには、とらわれずあるがまま、苦しみを歓迎し生きることが必要です。しかしそのためには言葉で説得してもなかなか思考や感情、ましてや生き方は変化しません。
武道の理想もまたとらわれないことであり、それは修行し体得しなければならないのですが、理屈や言葉だけで人の心が変化しないのと重なります。セラピーにおいても、新しい思考や認知、生き方は「体得」しなければならないのです。
セラピーにおいては、これまで心身両方に深く完成する技法として、イメージワークが用いられてきました。心理臨床の世界では、イメージは身体と心の中間に位置するものとされています。イメージは心身両方に影響を及ぼしやすいのです。イメージワークは「修行による体得」と言えます。
合気道も同様にイメージを多用します。「気」とはイメージによって出すことができるのもであり、イメージ体験です。「気」とイメージはかなり類似点があり、心と身体の中間領域であり、両方に影響します。
合気道では心身と同時に相手とも調和するイメージをしながら技を行います。逆のやっつけてやる!とか勝つ!というイメージは身体をこわばらせ緊張します(「居着き」)。これは癒しからは程遠い姿勢です。とらわれ執着につながり、うつ状態を作り出します。
つまり合気道では、「受容」「歓迎」「あるがまま」という理想をイメージすることを繰り返すのですが、そのイメージは、目で、視覚的に空想するイメージでなく、身体感覚でのイメージ、そしてそのイメージでセラピストとやりとりするという点が、他のセラピーのイメージワークと大きく異なっている点ですね。それが武道である合気道が心にも強く影響を与える理由でしょう。
<まとめ>
うつに対するセラピーとして、うつは問題だ、治さねば、という姿勢から、不快なうつ感情や思考も「受容」や「歓迎」する「あるがまま」「脱中心化」の姿勢を育てます。そのためにはイメージワークという心身両方にアプローチする技法がとられてきました。合気道の実践も「受容」「歓迎」「あるがまま」攻撃を迎えます。それもイメージしながら行うものであり、それは「心身一如」を実現し、「調和」を心身両方にもたらすことになります。それはうつのセラピーの方法として心身に影響を与え非常に有効なものであると考えます。
- 現代のセラピー;「受容」「歓迎」「あるがまま」「脱中心化」 を 「イメージワーク」によって心身ともに体験する
- 合気道;「受容」「歓迎」「あるがまま」「脱中心化」 を 「修行によって体得」する
以上、今回掲載された論文の内容を簡単にまとめてみました。心理支援の専門家の方は、ぜひ『心理臨床学研究 第43巻第3号』にて原典をご覧になってください。
また合気道セラピーを受けてみたい方、学んでみたい方は以下の申し込みフォームからお申し込みください。